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平成15年8月15日

自治体議会政策学会・自治政策講座 参加報告書

 自治体議会政策学会の第X期自治政策講座が7月26,27,28日の3日間、東京の「ゆうぽうと」で開催されました。自治体議会政策学会は主に議員を対象とした学会です。同様な名称の学会には自治体学会や自治体理論学会がありますが、前者は主に職員を、後者は主にマスコミを対象とした学会です。

今回の講座は、自治体改革、政策評価、マニフェスト、市町村合併などと内容が大変豊富であったため、初めて参加しました。その主な内容を報告いたします。

1.「自治体改革はできるか」 松下圭一 (法政大学名誉教授)

 内容は「自治体改革はできるか」という講座名から少し外れて、地方分権一括法の施行によって、自治体の行政がどのように変わるべきか、というものでした。以下、主な内容をご紹介いたします。

2,000年の地方分権によって、明治以来施行されてきた機関委任事務と各省庁の通達が廃止され、自治体は法定受託事務と自治事務を行うことになりました。このことは、国が県や市町村を統治する官治官権から、国や県が補完性の原理に基づいて基礎的自治体である市町村をサポートする自治分権に180度変わったことを意味するもので、国民は提灯行列を行っても良いほどの出来事です。

 昔は自治体同士が話し合うことさえ禁じられた時代があり、自治体が独自に勉強することなど考えられず、議会も機関委任事務に口を挟むことができませんでした。現在でも予算は款項別の予算編成となっており、実質上予算の変更ができない仕組みとなっています。また、議会には法務担当職員がいないため、実質上議員提案の条例は作れないし、議会は会期制を採用しているため、自由な討議ができないような仕組みになっています。

これらの問題は、政策別と事務事業別の予算編成や法務担当職員の配置、及び通年議会の開催によって解決するものであり、議会の活性化を図る必要があります。また、こうした活動を通じて自治体の事務事業のスクラップ・アンド・ビルドもしなければなりません。でなければ景気の低迷と少子高齢化による税収減や高齢者福祉費の増大、及び地価下落による固定資産税減少の時代を乗り切れません。特に今後10年以内に訪れる地方債の償還と職員退職金のピークが重なるときは、自治体が財政的に破綻することも予想されます。今後は財政計数によって自治体の格付けが行われ、借金ができない自治体も現れるのではないかと考えます。

2.「自治体議会と首長・執行部」 青山 ? (前東京都副知事)

 主な内容は青山氏の公務員として勤務してきた36年間の反省と総括です。

@ 危機管理について

 三宅島の火山噴火による全島避難達成から読み取れる最大の教訓は、まず責任者と常に連絡が取れること、また責任者が30分以内に役所に来られることです。何故ならば、役所は1週間の168時間のうち42.5時間しか開いておらず、役所が開いていない時に災害が発生する確立は3/4と多いからです。次に必要なものは、水とビスケットとトイレ、そして蚊取り線香とテレビですが、最も必要とするものは水とトイレです。ビスケット以外の備蓄した食糧は、住民から様々な不満が出る可能性があり、テレビは住民がニュースを見たいという要望があるためです。災害情報はパブリシィティ・マインドにより手間暇をかけてやらざるを得ないと考えています。

A 議員、首長、自治体幹部の類型化

 議員は恫喝型と紋切型とバランス型があります。職員から見ると、恫喝型はすぐに見分けることがでますが、そもそも議員が特権で働くのか、それとも責任感で働くのかを理解していない議員があまりにも多いです。また、市民のために献身的に働く議員は誰かなどもすぐわかります。紋切型は国の党の方針が身についていない議員が多いようです。

 首長はカリスマ型とナルシス型とバランス型があります。カリスマ型は超人的な能力や資質によって大衆の感情を操ることができる統率力のある人で、ナルシス型は自分が大衆にどのように見えているかに全神経を使う人です。優れた政治家ではあるが、判断や決断をしない首長はナルシス型で、常に選挙を意識しているため、誰のどのような意見も聞こうとしないようです。

 自治体幹部はロイヤル型と紋切型とバランス型があります。ロイヤル型は忠誠心が高いのですが、その忠誠心は仕事と人のどちらに向けられているのか見分ける必要があります。

B 議員、首長、自治体幹部の関係

 首長は議員と仲が良いことを示したいし、議員は首長に良く思われたい。しかし首長と議員の関係は職員が良く見ており、互いに媚を売らず反対は反対と言った方が良いと思います。

首長と自治体幹部の間には越えられない溝があります。首長は選挙で責任を負わされているという被害意識が強いのですが、自治体幹部は世の中が良くなれば良いとだけ考えており、選挙がなく批判されても首にならないため、不人気でも世間に叩かれてもあまり気にならないものです。

C 上記3者とメディア

 一般にメディアは長期計画を取り上げず、アドホック(その場限り)の出来事を取り上げたがるようです。したがって、出来事は首長や議員が発表し、計画は自治体幹部が行うと良いでしょう。いずれもアピールすることが大切で、その点、石原知事はアピールの天才です。

D 何をもって政策と言うのか

 政策は国や県と自治体の方針を分けて考えるべきです。例えば、まちづくりは全国交通ネットワークと地域コミュニティを、福祉は社会保障と地域福祉サービスを、教育は文部科学省と市教育委員会を、それぞれ分けて考えるべきです。また、政策評価のアウトカム指標やマニフェストの数値目標は、数値だけが一人歩きする危険性があります。図書館は利用者数を増やすためにハリーポッターの本を大量に購入するよりも、希少価値のある本を購入しないと本来の目的が薄れてしまいます。

3.「住民主権の動き」 日高昭夫 (山梨学院大学教授)

 自治基本条例の話が中心でしたが、特に目新しいものはなく、私は個人及び家族と市場、ボランタリー、コミュニティ、行政との関係の話に興味を持ちました。

日高教授は地域社会を支えるものとして、個人や家族を支える自助、市場が支える民助、コミュニティが支える共助、ボランタリーが支える協助、行政が支える公助、の5つからなる「五助」システム構想を説いておられます。そして、それぞれが支える各セクターの特徴、短所や失敗などを、次のように整理しています。

各セクターの特性比較と固有の短所

 
 
企業
NPO
地域自治会
行政

特徴
組織理念
利益の最大化
必要性
負担の公平性
公平・平等

行動規範
採算性
共感
慣習
法律・規則

行動源泉
市場原理
自発
相互監視
権限(強制力)

行動特性
競争
柔軟・多様
集合
均一・画一

受益特性
選択的
部分的
全体的
全体的

行動範囲
国内外
地域・海外
町内・近隣
行政区域

短所・失敗
市場の失敗
ボランタリーの失敗
コミュニティの失敗
政府の失敗

公共財サービス不提供
サービスの偏在
フリーライダー(サービスのただ乗り)
組織肥大化・官僚化

外部不経済性
善意のパターナリズム(父親的干渉)
パロキアリズム(偏狭主義)
フリーライダー

情報の非対称性
アマチュアリズム
 
レントシーキング(所謂ロビー活動)

4.「自治体の政策評価とマニフェスト」 竹下 譲 (四日市大学総合政策学部長)

 竹下教授は選挙時の公約に対し、次のような問題点を指摘しています。

立候補者の公約を本気で信じている有権者はいるのだろうか。今までの公約はウイッシュ・リスト(おねだり表)のごとく夢物語や願望ではなかったのか。公約は選挙の時だけのもので、公約を守らなくても誰も文句を言わないのではないか。どうも政治家自身が必ず守るという意識はなさそうである。一体過去の公約を覚えている人はどれだけいるのだろうか。

 次に、竹下教授は現自治体の行政のあり方に対し、次のような問題点を指摘しています。

自治体には基本構想と基本計画及び実施計画があり、それぞれに予算概要が示されています。ローリングと呼ばれる予算の見直し作業はありますが、基本的に誰が首長になろうとも、国の補助金の制約条件がありますので、基本構想と基本計画及び実施計画の大幅な変更はできません。

では、これらの計画を無視して、首長は自らの政策(公約)を職員に押し付けることができるでしょうか。恐らく無理で、職員は首長の公約の方を無視するでしょう。その理由は、現在の自治体の施策体系と予算が国の法律によって根拠付けられており、国の補助を受けなければ運営できない自治体は、国の施策体系に従わざるを得ない仕組みになっているからです。この仕組みを変えるためには、国の法律や政令を変えるか、財政的に国に頼らない行政を行う必要がありますが、今の自治体にはそのような力量はありません。

ところで、自治体の施策体系が有効であったか否かの評価を、誰がどのようにして行うのでしょうか。残念ながら今のシステムでは、国の補助メニューに則った予算が議会で可決されれば、その施策は法律で担保されているため、誰もクレームが付けられない状況が生まれ、結果の検証という作業が機能しない仕組みになっています。

このように首長が既存の計画を変更できないとするならば、それでは選挙は何のために行われるのでしょうか。選挙は既存計画のアリバイ作りであり、有権者を馬鹿にしているのではないかと考えます。そもそも、有権者は何を基準に候補者を選定すれば良いのでしょうか。

  こうした閉塞状況のなかで、国は地方分権と三位一体による税源委譲の方針を出しました。ですから、これからは自治体が自己決定自己責任により住民サービスを取捨選択しつつ自立した行政を行うことが必要となって、自治体同士の競争が始まると思います。このため自治体首長の選挙政策を検証するものとして、従来の公約よりも厳格なマニフェストの有用性が出てきました。

マニフェストは選挙を政策論争の場とし、政治への信頼を確立するための手段であり、公約(ウイッシュ・リスト)から脱却するものです。イギリスのマニフェストは有権者との「契約」であり、必ず実現すべきものとして位置づけられています。政策の優先順位と財源と期限が明示され、その達成度をチェックしつつ政策評価を行うものです。

日本も各候補者がマニフェストを公表し、有権者は候補者の顔が見えなくとも投票者を決定できるようにしたいものです。

5.市町村合併のオープンディスカッション (コーディネーター 竹下譲)

 ディスカッションは、出席者が自己の所属する自治体の合併に関する問題点を発表し、他市の出席者が回答する形式で進行しました。発表自治体と課題は次の通りで、詳細は省略します。

逗子市(人件費削減)、狭山市(合併を争点に市長選挙)、伊賀上野市(合併が破綻)、明石市(花火大会の責任問題)、東京都太田区(都はピンハネで不要)、釧路市(下水と除雪の問題)、宇野市(法定合併協議会を否決)、町田市(都市の適正人口)、小山市(栃木市との合併は破綻)、鎌倉市(広域連合議員は間接議員)、多摩市(基礎的自治体を精査)、東京都港区(政治家はビジョンが必要)、越谷市(議員の落選症候群)、流山市(市民に情報提供がなされない住民投票に反対)、東京都太田区(投票率が低く民主主義が機能せず)、多治見市(現状報告)

6.「自治体財政の仕組みと行政評価、新しい経営」 星野 泉 (明治大学教授)

内容は、「自治体財政の仕組みと行政評価」というよりも、「税制度のあり方」といったものでありました。

そもそも税金はサービスの対価に支払うものではなく、制度によって国民からむしり取るものであって、支払わない国民は罰せられます。集められた税金は何に使っても良いのですが、その使途は選挙によってチェックを受けます。税金の他の政府資金として財政投融資がありますが、これは金融のため目的が限定されており、将来償還しなければならないものです。最近は税金と財政投融資との境界が曖昧となっています。

これらの政府資金を使って得られるものには、公共財と価値財があります。公共財は防衛や外交などの国民に戻らないサービスで、メリットが分かりにくく料金も不明です。これに対し、価値財は市営住宅などの対価が得られるサービスで、民間が行っても良いサービスです。

 現在、政府税制調査会や地方制度調査会、及び財政制度等審議会などで、自主財源(法定外課税)か税源委譲か、交付税見直しか税源委譲かなどの議論がされました。その結果、機関税目(所得税、消費税等)を充実させ、三位一体の改革による自治体への税源委譲の方向が示されています。そして、その狙いは税源委譲により国民の半分を占める自治体を不交付団体にしたいという政府の目論見であります。

そもそも日本の税制は税金を安くする(日本の課税最低限は高くない)から、家庭(世帯)で必要とするサービスは家庭内で賄えという制度です。そして今後はナショナルミニマム(国が保障する最低レベルの生活水準)を結果平等よりも機会均等にすべきであり、過度な公平性よりも地域差があっても良いという方向で検討されているようです。

しかし、日本人は基本的に役所を信用していないので、有権者を直撃しない法定外税の方が成功しやすく、しかも世帯単位の課税よりも個人単位の課税の方が良いと考えます。

以上


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